当麻蹴速(たいまのけはや)

大相撲夏場所が始まりました。連日、熱戦が繰り広げられています。
大相撲のルーツは、野見宿禰(のみのすくね)と当麻蹴速(たいまのけはや)が天覧相撲で戦ったことにあります。

日本書紀の垂仁天皇7年7月7日の段に二人の戦いが出てきます。

當麻村に当麻蹴速 (たいまのけはや)という男がいた。
この男は動物の角を砕き、鉤(かぎ)を伸ばしてしまうほど力が強い。
蹴速は村人たちにこう言っていた。
「私と力比べをする男はいないか。死ぬことなど考えずに、力比べをしたいものだ」
このことが天皇の耳に届き、「当麻蹴速にかなうやつはいないのか」とおっしゃると、従者の一人が「出雲の国に野見宿禰(のみのすくね)という勇士がいます。これを召し出し、戦わせてはいかがでしょう」と進言した。
さっそく天皇は野見宿禰を呼び寄せ、二人に角力をさせた。
二人は向かい合って、脚を上げて蹴り合ったが、野見宿禰が蹴速の肋骨を蹴り折り、腰を踏み折って殺してしまった。
天皇は当麻蹴速の土地を召し上げ、野見宿禰に与えた。
これがその村に腰折田(こしをれだ)がある謂れで、野見宿禰はその後も朝廷に仕えた。

今の相撲とは違ってキックボクシングのようです。
最後には、蹴速は殺され、所領の土地は野見宿禰に奪われるという、血も涙もない残酷な結末です。

相撲館けはや座

当麻蹴速の生誕地という葛城市には「相撲館けはや座」があります。当麻蹴速を顕彰するために建設されたもので、相撲について楽しく学べ、体験できる資料館です。

正面には大きな五輪塔「当麻蹴速の塚」があります。野見宿禰に敗れた当麻蹴速をお祀りする塚です。
残念ながら、塚の様式からは平安時代中期以降に建てられたものと推測されるため、当麻蹴速とは関係はないそうです。
この塚は江戸時代に発行された『西国三十三所名所図会』という、今でいうと旅行ガイドブックにも掲載されていて、当時すでに野見宿禰に敗れた当麻蹴速へのシンパシーがあったのかもしれません。

傍らには、大きな手の形が付いた鉄砲柱が立っています。相撲に親しんでほしいとの思いから、建てられたものです。
力士は鉄砲を毎日数百から千回行うようです。単に手で突くのではなく、下半身の踏み込みや腰をひねる体幹の回転が加わることで、一発で100〜200kgもの圧が生まれるそうです。普通の人間なら、一撃で死んでしまうような恐ろしいパワーです。

「相撲館けはや座」には本場所と同じサイズの土俵がありました。
土俵はテレビで見ているより大きいように感じました。力士が大きいので、その分土俵が小さく見えているのでしょう。

何より驚いたのは、土俵の高さです。
調べると、高さは55cmから66cmで造られているようです。
押し出されたり、投げられたりして、100kg以上の巨体が転がり落ちても、すぐに起き上がれるのは、力士にそれだけの強さがあるからでしょう。

土俵の角っこに塩が置かれていました。取り組み前にまく塩です。
相撲取りのまねをして、塩をつかんで投げ上げました。手が小さいためか、お相撲さんみたいに豪快に塩をまくことができませんが、こんなことをやるのは初めてで、楽しい経験になりました。

大相撲では塩をまけるのは十両以上の力士だけです。それでも1日約35kg、ひと場所で500kg以上の塩がまかれます。十両以上の力士は70人なので、力士一人が一回の取り組みで約500gもの塩をまきます。仕切り直しのたびに塩をまくと言っても、それだけの塩をつかんで投げられるのは、手が大きいということですね。

けはや座の2階には、昔の関取衆の写真や横綱白鵬の化粧まわしが展示されていました。

写真を見るかぎり、昔の関取衆は筋肉質タイプが多い印象です。今の関取の方がよっぽど体重が重いと思います。

白鵬の化粧まわしにはやなせたかし先生の絵が描かれていました。あんなに強かった白鵬関はこんなにかわいらしい化粧まわしを締めていたのですね。圧倒的な強さとのミスマッチが楽しい。

腰折田公園

香芝市には腰折田公園という名の小さな公園があります。

このあたりには当麻蹴速と野見宿禰が戦った場所であるという伝承があります。付近には二人がまわしを洗ったと伝えられる「まわし池」があるそうです。

公園内に土俵がありました。江戸時代の土俵サイズである3m94cm(13尺)で造られているそうで、あきらかに「けはや座」の土俵より小さい。大相撲の土俵サイズは4m55cm。60cmの差はけっこう大きく見えました。

現在、スポーツとして楽しんでいる相撲には長い歴史があり、歴史上初めて相撲が行われた場所の伝承が残っています。
葛城市や香芝市だけではなく、桜井市にも相撲発祥の地という相撲神社があり、さらには桜井市内には出雲という地名も存在します。

日本書紀の短い文章だけでは、どこが本当の発祥の地かはわかりませんが、新たな発見があったら楽しいですね。